地方への一人旅を終えてヤンゴンへ戻ると、
街は旧正月の真っ赤な色に染まっていた。

やはりここはチャイナタウンなのだ。

彼女の家にも親戚が集まり食卓には様々なごちそうが並んでいた。
彼女は挨拶も早々に私をムリヤリ食卓につかせると、
喜々として料理をふるまった。

ザジゴン、あなた今までどこで何していたの?
食事はどうしてたの?
地方にはおいしいものがないでしょ?
ほらエビ食べて、スープは?野菜は?揚げ物は?

世話を焼きながら嬉しそうな横顔。
 

旅立つ日の朝、彼女はお金を燃やしながらこう言った。

「ひとりで来てひとりで帰るのね、
ねえ、ザジゴンひとりで怖くないの?」

「怖い!?
ピアノのレッスンの帰りが遅くて心細かったことがあった、
8才のときかなあ」

「8才?!
ひとりでレッスンに通っていたの?!
あなたって本当に強いのねえ。」

「自分がやりたいって決めたから、怖いと思ったら何もできないよ」

そんな思いをぐっと飲み込んだ。
お金が次々と燃えて飛んでいく。

「祖先がむこうでの暮らしに困らないように。」

 
時は流れた。

人づてに彼女がアメリカで医者のインターンとして働いていることを聞いた。

彼女のいないチャイナタウン。
中華寺院の前を歩きながら涙がでた。

私はいつまでもいたずらな旅行者だ。
未来も過去もなく、ただ歩き続けるだけ。

(Travel Note vol 3 Yangon、おしまい)  

written by ザジゴン
 

 
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